来 歴


その先は・・・・・・

ひとりの私が
遠い国で処刑されてから
もう何度空は赤く焼けることか
そのとき言いきれないたくさんのことばを
言い終わらないうちにおびただしい血が流れた
あれから片づけきれないたくさんの仕事を
片づけ終わらないうちに瀕死の太陽が落ちてくる
毎日のことだから心が痛まないのだろうか
かくめいなどどうしても起こりっこない
この国の常識だろうか それは
血にも太陽にも無関心で
自分の興味のおもむくままに動く
そうでなければ決して動かない
無頼な人種の生きる国だ ここは
わがままな群衆の中では
勇ましい制服を身にまとって
にせものの私は黙って空ばかり見上げる
「もうすっかり癒えて
どのあたりが傷だったのかもわからない」
彼らの感嘆の声が聞こえる以前に
無傷の頭を
新しい帽子の中に押しこんでしまうことだ
彼らにとって私は強いほうがいい
敵よりももっと手ごわく
豪傑よりも不死身なのがよい
けれどもいかんながら
そこにいるのはにせものの私だ

どこからまちがってしまったのだろう
戦火の空の下ではうつむいていたくせに
もとどおりの青い空になれば
肩をいからせてさっそうと歩いてみせる
死んだ私に似せようとして
笑わせるじゃあないか眼鏡までかけている
何を見ようというのだ
おまえの見捨てたものたちはとうに見えない
村の高いモミの木に宙づりにされていた
あわれな仲間たちはおまえの仲間ではない
その向こうのまっかに焼けた空は
おまえの空ではない

おまえはこんりんざい見るな
一番たいせつなものを見ないで
おまえの未来を信じるな
ここはかっと目を開いたつもりでも
何ひとつ信じるもののない国だ
ああ言うな
「次の世界はおれのものさ」などと
まちがったことを絶対に言うな
おまえには太陽の強さを知る知恵もない
人間のおろかさを笑う権利もない
おまえを許せない理由だけがここにはある
ずかずかと恥しらずに
私の祖国を踏みあらすおまえの足へ
痛烈な弾丸をぶちこんでやる勇士はいないか
こうして金色の平和のみのるかもしれないある朝
まばゆい太陽と生きかえった私が
ほんものの歴史を刈り入れに行くがいい
夢物語のその先はまだまだ書けない

 

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